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TCGでもドライブスルー!? アメリカTCG界の「withコロナ」を現場レポート 【平良俊一(Bushiroad USA Inc. プレジデント&COO)】
2020年06月24日
はじめまして、Bushiroad USA の平良と申します。当社はアメリカ合衆国のカリフォルニア州ロサンゼルス近郊にオフィスを構えており、ブシロードグループの北米におけるマーケティング、営業、店舗サポートを手掛けております。今回はアメリカにおけるトレーディングカードゲーム(以下TCG)業界の事情、特にコロナ禍が広がっていく中で業界にどういう影響があり、どう対応してきたかを話したいと思います。
「Non-Essential Business」への大きな影響
▲感染拡大が本格化する前の店舗での講習会の様子
アメリカで新型コロナウイルスの感染が多く報告されるようになったのは3月上旬からでした。それを受けて3月中旬までにはほとんどの州で非常事態宣言が発令され、州ごとに外出制限や小売店、オフィスの営業制限が掛けられました。どうしてもエンターテインメントは「Non-Essential Business」(生活において必要不可欠ではない業種)ですので、制限の対象となります。さらにTCGはデジタルコンテンツと違い物理的な商品を扱っており、対人ゲームで人と集まって遊ぶため、人と接触せずに楽しむことが難しく、影響を大きく受けてしまいました。
最も打撃を受けたのは実店舗を構える小売店さんでした。TCGを販売しているのはホビーストアやゲームストアと呼ばれる、街のおもちゃ屋さんのようなお店さんです。店内には対戦できるテーブルと席が設けられており、大きいところだと100席以上あるお店さんもいます。ホビーストアはアメリカに2千店ほどあり、TCGの販売における大部分を担っております。チェーン店などで通販サイトを運営しているところもありますが、ほとんどは通販サイトを持っておらず、お店が開けられないと収益がゼロになってしまいます。そのため、多くのお店さんでは、自身の通販サイトがなくても販売できるAmazonマーケットプレイスやebay(オークションサイト)を活用してオンライン販売を行うようになりました。
コロナ禍で広まった「TCGのドライブスルー」
▲新型コロナウイルス感染拡大後、多くの店舗が営業制限を余儀なくされた
「カーブサイド・ピックアップ」という手法で販売しているお店さんもいます。こちらは事前に電話やメールで商品を注文し、店舗の駐車場や路肩(カーブサイド)に車を停めると、店員が商品を届けに来てくれるという方法です。言わばTCGのドライブスルーであり、車社会であるアメリカだからこそ可能な手段だと感じます。当社のスタッフも実際に利用していますが、最低限のやり取りで素早く商品を受け取れるため、便利で安心だと言っていました。
そのような販売手段を駆使しても、純粋な通販サイトとの競争もあり、お店さんにとって困難な状況には変わりありません。さらに、アメリカのみならず各国の製造や物流にコロナ禍が及んだことで、メーカー各社が4~5月に予定していた商品の発売延期が相次ぎ、ブシロードとしても約2ヶ月は英語圏向けの新商品がないという事態になりました。TCGは、新商品が出るたびにユーザーさんが新しいカードを買い足すことで遊び方に変化が出て、楽しみ続けられるというゲームです。お店さんとメーカーのビジネスもそれによって成り立っています。そのため、新商品がないとお店さんの収入は激減してしまいます。
そんな中で、当社含めて各メーカーはお店さんに既存商品や今後発売される商品を無償または値引きして提供することで、お店さんを支援することを表明しました。販売ルートに加え、ユーザーが交流して遊ぶ場所の提供という点でホビーストアは重要であり、業界全体でサポートする必要があります。
「リモートファイト」と「モバイルアプリ」が遊ぶ場を補った
▲「ブシロードリモートファイト」には日本やアメリカをはじめ、世界中のユーザーが集う
お客さんが商品を購入できたとしても、現在は人と対戦して遊ぶときにまた1つハードルがあります。世界選手権など大きな大会は中止となり、上述のようにお店さんの対戦スペースで遊ぶこともできません。また、友達で集まって遊ぶことも難しい状況にあります。それを受けて、家にいながら離れた人とリモート対戦できるプラットフォームをメーカー各社が立ち上げました。ディスコード(※無料のチャットツール)などのソーシャルメディア上で公式グループを作り、オンラインで集まったユーザー同士が通話しながらウェブカメラでお互いのカードを映して対戦できるという仕組みです。
以前から通話アプリを使って対戦することはユーザー間で行われておりましたが、メーカーが公式にサポートするようになったのは初めてでした。ブシロードは感染拡大が本格化する前の2月下旬より、「ブシロードリモートファイト」というサービスをディスコード上で立ち上げ、世界中のユーザーさんが毎日そこで交流や対戦をしています。普段だと友達同士や近くのお店にくるユーザー同士の交流に限られていたのが、リモート対戦によって世界中のユーザーと毎日交流できるようになった、というプラスの側面もありました。
▲全世界で100万ダウンロードを達成したアプリ「ヴァンガード ZERO」※画像は日本語版
さらにカードゲームを遊ぶ場を補ったのがオンラインゲームです。オンライン版を出しているTCGも多く、ユーザーが遊ぶ場所、公式大会を開催する場として今まで以上に活用されています。ブシロードも「カードファイト!! ヴァンガード」のモバイルアプリゲーム「ヴァンガード ZERO」を4月9日に英語版でリリースし、非常に好調で約1ヶ月で50万ダウンロード、先日には全世界累計で100万ダウンロードを達成しました。好調の要因は色々ありますが、リアルなカードゲームでの対戦が難しい今でもヴァンガードを楽しめる、ということも間違いなく1つの理由だと考えています。
パートナーの店舗商品が略奪される社会不安の中で……
▲Bushiroad USAのスタッフ。現在もリモートワークを実施している
現在は、全ての州において外出制限や営業制限は緩和され始め、お店さんは通常営業を再開できるところが増えております。しかしお店さん、ユーザーさん双方の安全を考えると人を多く呼ぶ大会やイベントの開催は当面の間は難しく、リモート対戦、オンライン版、少人数での対戦がしばらくは遊び方の中心となりそうです。ブシロードとしても、オンラインでの新しい楽しみ方を推進しつつ、小売店さんを全面的にサポートし続ける考えでいます。
数々のハードルがある中でも柔軟に対応し、商品は売れ、ユーザーさんは遊ばれ続けているので、TCG業界は非常に熱心な方たちによって支えられていると改めて実感しました。ゲームを通じて色々な人と直接交流できることがTCGの大きな醍醐味です。
しかし、さまざまなことが重なり、今も社会情勢は不安定な状態です。ブシロード商品を取り扱っていただいているお店さんでも、窓ガラスが割られ、商品が略奪されてしまうという事件が先日発生しました。私たちのパートナーにもこういうことが起きてしまい、アメリカに家族と住んでいる一個人としても、社会不安による治安面の悪化という心配もあります。
コロナ禍以前の生活に戻るまではまだまだ時間がかかるかもしれませんが、また大勢で集まる大会やイベントを行ったり、海外のユーザー同士が交流できる世界大会を開催できる日が早く来ることを願っております。
平良俊一(たいら・しゅんいち)/Bushiroad USA Inc. プレジデント&COO。
「カードファイト!! ヴァンガード」「フューチャーカード バディファイト」などブシロードTCGの開発に携わった後、現在は海外でのブシロードTCGの普及に取り組む。